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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)183号 判決 1963年11月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人椎木緑司の上告理由第一点について。

所論被上告人(被控訴人)林の主張が、原判示の訴訟の経過の下においては、訴訟の完結を遅延せしめ或は著しく訴訟を遅延せしめるものと認め難いとした原審の判断は、正当である。それ故、右判断に、民訴一三九条、二五五条の解釈を誤つた違法があるという所論は、採るをえない。

同第二点について。

本件土地の賃借人たる被上告人林が他から差押仮差押仮処分を受け、もしくは競売破産の申立を受けたときは、賃貸人たる上告人(控訴人)は催告を要せずして何時にても契約を解除しうる旨の特約の趣旨が、賃借人において他から仮処分等を受けた場合には、事情の如何を問わず常に無条件に、賃貸人に契約解除権を認めるものであるならば、借地法一一条の規定によつて無効であるとした原判示は正当であつて、その判断に所論の違法はない。また、賃借人が離婚問題のために、その妻から財産分与請求権保全のための仮処分を受けたとしても、右特約により賃貸人に契約解除権を発生せしめるものでないと認めた原審の判断も、正当であつて、所論は採用の誤りでない。

同第三点について。

原審が適法に認定している事実関係の下においては、被上告人両名間の本件第三建物についての所有権譲渡およびその旨の登記が通謀虚偽表示によるものであると認めた原判示は、正当である。また、右事実関係の下において、上告人が民法九四条二項にいわゆる第三者に当らないとした原審の解釈も、正当であつて、原判決の引用している大審院昭和一四年(オ)八四二号同年一二月九日判決、民集一八巻一五五一頁の判例はこれを変更する必要をみない。

同第四点について。

賃借権の譲渡または土地の転貸、賃借地上の建物その他工作物につき売買譲渡、賃借権の設定をなすには、予め賃貸人の書面による承諾を要すべく、この特約に違反したときは、賃貸人は催告を要せずして何時にても契約を解除しうる旨の特約は、それらの行為が賃貸借における信頼関係を破壊するような背信行為に当る場合に限つて、賃貸人に契約解除権を認める趣旨であると解すべきものとした原審の判断は、正当である。かかる場合に限定しないで、広く賃貸人に契約解除権を認めることは、借地人に債務不履行ないかぎり、借地権の保護を厚くせんとする借地法一一条の強行法規の法意に反するものであるから、民法九一条によつてその特約の効力を認めるわけにいかない。それ故、所論もまた採用できない。

同第五点について。

原判決によれば、原審は借地法四条を適用しているのではなくて、同法六条による法定更新を認めているのであるから、賃借人たる被上告人林の更新の請求の有無を論じる必要はなく、また原判決の認定した事実関係に照すと、上告人の異議に正当の事由はないとした原審の判断も正当であつて、所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤朔郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾)

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